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PEOPLE #音に命を吹き込む場所

アーティストの音楽を最高の作品にするために
無数の音と向き合い続けるスタジオエンジニアの想い

音源は、レコード会社の大切な資産。
コロムビア南麻布スタジオには、音源を生み出すため、真摯に音に向き合うエンジニアがいます。
普段はなかなか知ることのないスタジオエンジニアの仕事について、日本コロムビアのレコーディングエンジニアに話を聞きました。

  • Shiozawa
    1987年新卒入社
    レコーディングエンジニア

    特にクラシック・ジャズ等のアコースティック音楽を得意とし、幅広い録音環境に対応し、日本から海外までと広く活動している。日本プロ音楽録音賞他、多数録音賞受賞。

  • Izawa
    2016年中途入社
    レコーディングエンジニア

    スタジオ経験を活かしアコースティック音楽から打ち込みまで ジャンル問わず活動。近年ではライブ作品を多く録音している。

― お二人のことを聞く前に、まずはスタジオエンジニアの仕事について教えてください。

Shiozawa:スタジオエンジニアには、大きく分けて『レコーディングエンジニア』と『マスタリングエンジニア』があります。
レコーディングエンジニアは、簡単にいうとマイクロフォンを通してアーティストの音楽を汲み取りながら録音し、作品を一緒に創り上げていく工程です。スタジオはもちろん、音楽ホールでクラシック、ライブハウスでバンドなどのレコーディングをしたりもします。技術者ですがアーティストにも近く、エンジニアの感性によって様々な作品が生まれてくるんですよね。

― アーティストの音楽を「作品」に作り上げていくんですね。

Shiozawa:そうですね。レコーディングの段階では各楽器にたくさんのマイクロフォンを使用しているので、数えきれないくらいのオーディオトラックがあります。そのたくさんのトラックを、一つずつ調整・加工しながら、最終的に「ミックスダウン」という工程で、普段皆さんが聞かれているステレオのツートラックの音源を創り上げます。主にコンピュータ上の作業ですが、音質や音圧や残響感など、たくさんの音を調整しながら、一つの音楽に創り上げていきます。

例えば、同じアーティストレコーディングしたとしても、担当するエンジニアによって全く違うものになります。エンジニアの感性がそれぞれ違うので、アーティストと担当エンジニアとでそれぞれの感性の化学反応で音楽が出来上がっていきます。

― レコーディングの流れと、エンジニアの工程について教えてください。

Shiozawa:レコード会社の基本的な流れは、制作担当が作品を「どういう作風」、「どのようなサウンド」で生み出していくかの検討から始まり、そのディレクターのイメージによって我々がアテンドされます。アーティストから指名があることもあります。 そしてレコーディングを経て、会社の資産となる「マスター音源」が作り上げられます。マスター音源というのは、コロムビア創業以来110年以上の音源ももちろん残っていますし、この先何百年も残る財産なんですよ。

Izawa:マスター音源が出来上がったら、次にマスタリングの工程になります。 例えば10曲収録のアルバムであれば、マスター音源を実際のアルバムの曲順に並べ、アルバム全体を通しての音質や音圧感、ある程度の方向性を決めてアルバム全体としてのクオリティを上げつつ、パッケージにする作業をマスタリングで行っています。

― レコーディングエンジニアとマスタリングエンジニアで分かれているのはなぜでしょうか?

Shiozawa:レコーディングエンジニアもマスタリングをやるという流れも世の中的にはありますが、コロムビアでは分業制になっていますね。
録音をしてマスター音源を作る工程と、マスター音源を製品にするための工程は、「音を創り上げる」という大きな枠では同じなんですが、やってる内容が全く違うんです。

Izawa:レコーディングエンジニアがマスタリングをしようとした場合、作業の流れとしてはできるかもしれませんが、レコーディングとマスタリングではエンジニアがポイントとする部分が違うのかなとは思います。

Shiozawa:レコーディングエンジニアは「曲全体」を通して各楽器の音を細部まで見て、バランス創りや音質創りなどを行ってるんですけど、マスタリングエンジニアは「ツートラック」になっているものから作業が始まるので、そこに至るまでの細かい部分は作業として見ません。細部から始まるか、全体像から始まるのか、と作業のはじまりが全然違います。

― 音源づくりの過程を料理に例えると、レコーディングエンジニアはシェフでしょうか?

Shiozawa:料理で言ったら、シェフかもしれないですね。音という素材を使って料理をプレートの上に乗せるまで。

Izawa:マスタリングが仕上げ、ですかね。 そこが非常に大事で、塩をひと振りするとか、香草をちょっと飾るとか、おしゃれにしてみるとか。アルバムをコース料理だとすると、コースをまとめ上げるというのがイメージに近いのかなあと思います。 そして、最終的に客観的に全体を見ているマスタリングエンジニアがいるから、僕たちも安心して仕事ができると思っています。

Shiozawa:マスタリングが完了した時点で製品のオーディオデータになり、CDの工場に行きます。

― では、CDの音源と、ライブの大きな違いについて教えてください。

Shiozawa:CD音源というのは、いろんな人の想いを込めて創り上げた音楽なので、全てのジャンルにおいて「芸術作品」なんですよね。 ライブは、その場で音楽を瞬時に体感できて、熱や会場の雰囲気も含めてかっこよさや全てを実感できるんですけど、CD音源は「音」だけしかない。いかに音でそのアーティストの想いや創り手の想いが伝えられるかということです。音だけで感じ取ってもらえるように、いろんなことを注ぎ込む。聴く人もそれぞれ聴くシーンが違うので、ライブと違って聴く人によって感じ方も違いますね。

Izawa:CD音源は、アーティストはもちろんディレクターや僕たちエンジニアをはじめ、他にも見えないたくさんの人と一緒にチームで作ってるのでいろんな意図が入っていますね。

Shiozawa:ライブが楽しいのはもちろんですが、音源という「創り上げた作品」を楽しんで聴いてもらうようにするには、どうしたらいいのかなというのが僕たちも本当に常に考えながらやっています。

「大好きな音楽とずっと一緒に過ごしていきたい」
夢を現実にするために、歩んできた道のりとは。

― それでは、お二人のことを聞かせてください。 お二人とも学生時代から既にスタジオエンジニアを目指されていたということですが。

Shiozawa:僕の生まれは北海道の田舎なんです。父が音楽好きだった影響で小さなころから楽器をやっていて、音楽に非常にマセた子どもでした。いつも音楽に飢えていろんな音楽を探していたんですが、お金がないので情報源は全部ラジオだったんですよね。当時FMの音楽番組はものすごく貴重な情報源だったのですが、あまりにも田舎でFMの電波が弱く聞きたいのに聴けない…。
だから小学生の時から、自分でアンテナ作って張り巡らせて、FM電波をキャッチしていました。

― 音楽に飢えてるってそういうことですね。

Shiozawa:子どもなのに、プレゼントにおねだりするのはほぼ音楽関係のもの。そうして、レコードプレイヤーやオーディオシステム、洋盤も問わずレコードをいろいろ集めました。あるとき、レコードに付いているブックレットのクレジットに「レコーディングエンジニア」という文字を見つけたんですよ。

― 初めて「レコーディングエンジニア」の存在を知ったときですね。

Shiozawa:中学生の時です。レコーディングエンジニアって何をする人なのか、よくわからなかったので、音楽雑誌で調べて「そんな仕事もあるのか!」と思ったくらいでしたが、高校生になって自分の進路や仕事を考えるようになった時に「好きな音楽と、ずっと過ごしていきたい」としっかり思うようになりましたね。それで、音楽の専門学校に進み、音響工学を勉強しました。

― 学校で音楽や音響工学を専攻していても、レコーディングエンジニアになれるわけではないんでしょうか?

Shiozawa:はい。音響工学の専門学校は当時結構あって、現在は大学でも音響全般を学ぶことはできますが、その中から実際にレコーディングエンジニアやスタジオで働ける人は、1割くらいですね。

Izawa:さらに10年後も続いているかで言うと、もっと少ないかもしれないですね。(笑) 担当するレコーディングによって時間が読めないので、それを辛いと感じる人はいるかもしれませんね。

Shiozawa:僕は本当に大好きな音楽を仕事にできているので、大変なことがあったとしても、楽しい気持ちがいつもベースにあります。まぁ、そうじゃないと30年以上続けられないかな。僕たちの仕事は、作品と一緒に名前が残る仕事なので、その重要さを日々考えながらやっています。

Izawa:僕も同じく専門学校で音響を専攻しました。楽器はやっていませんが、周りに音楽やってる友達が多くて、高校生ぐらいには漠然と音楽業界に進みたいと思ってましたね。
その中で自分の将来働いてる姿をイメージできたのが、レコーディングエンジニアでした。宅録やカセットテープにラジオの編集とか曲の編集とか好きでやっていたからか、向いてんじゃないかなと思って。
最初は独学でなろうとしたんですけど、やるなら一流のプロと仕事したいので、きちんと勉強しようと思って専門学校で勉強して、商業レコーディングスタジオに就職した後、縁があってコロムビアに入社しました。

― 商業レコーディングスタジオとレコード会社のスタジオエンジニアの違いはなんですか?

Izawa:音源ができるまで、最初から最後まで見られるところが一番の違いですね。
商業レコーディングスタジオは、基本的にはスタジオで各ミュージシャンが音楽を演奏し、エンジニアが録音した音源をお渡しして終わりになります。あくまでもスタジオのスタッフなので、その作品に対して最初から最後までずっと付き合うってことはなかなかないんですよね。

― では、コロムビアに入社して、より大変になりましたね。

Izawa:作品に対しての責任は重くなってきますが、それがやりがいだったりしますね。
あとコロムビアには古い機材が多いので、昔のアナログテープや触ったことない昔のテープレコーダーや、昔の音源を聴ける機会が多くなりました。

Shiozawa:そう、昔の音源というのは本当に勉強になるんです。各先輩方が作ってきた音って、その当時の機材で当時の流行の音で、先輩の1人1人の感性を身近に聴けるんだよね。一つ一つの作品を創り上げた人たちの思いもありますし、重みを感じます。

Izawa:CDやレコードになる前の状態を聞いて、「こうやって音楽になってる、すごいな」って、なかなか普通では聴けないものに触れられます。
過去のマスター音源やマルチトラックを聴いて自分の糧にするとか、古い機材を扱ってその当時のものを深く知るとか、そういったところは本当にコロムビアならではですね。

  • 1970年代~1990年頃使用 STUDER製トラックアナログマルチテープレコーダー

  • 1980年代~2000年代使用 トラックデジタルマルチテープレコーダー(左:MITSUBISHI製 右:SONY製)

※歴代の録音機材も大事に保存されているレコーディングスタジオ。現在でも過去音源の2次使用の際に使用している。

― 音楽の勉強をしていなくても、スタジオエンジニアにはなれますか?

Shiozawa:先ほど言ったように、その音楽の勉強をしてもスタジオの仕事に就ける人はそんなに多くないけど、業界にはレコード会社に就職した後で、初めてスタジオで仕事している人もいます。そういう人を見ていると、特別な技術を持っているとかではなく、音楽に対する知識が豊富で社交的で人間力が高い。音楽への情熱が感じられるっていう人たちが多いです。だから、学生時代に音楽的な勉強をしてなくても、熱意があって興味が本当にあったら。

Izawa:間口は狭いというだけで、エンジニアになることに対してのハードルはそこまで高くないと思います。

Shiozawa:エンジニアリングは、経験を積んでできるようになっていくことなので。

Izawa:現場を積んでいけば自然と自分の技術が付いていきますね。

Shiozawa:あとは、自分の感性を磨くことを意識したり、人とのコミュニケーションを大事にしたりね。

― マスター音源ができるまで基本一人での作業とのことですが、エンジニア同士で相談しあうことはあるのでしょうか?

Izawa:客観的な意見が欲しいなとか、そういうときはありますね。

Shiozawa:誰かに教わってやってきたことではなくて、自分の感性で試行錯誤しながらエンジニアとしての技術を身に着けてきたものなので、その中で出てくる問題をどう克服してきたか、というのも各自違うんですよね。だから、たまに会ったときにはお互いの知見を共有したり、感想を聞いたりしていますね。

Izawa:「これってどうやってます?」ということも聞きますが、人のやったことを真似してみても、そこにはエンジニアの「感性」が組み込まれてくるので、全く同じ音にならないんですよ。だから、やっぱり結局は「自分の音」になってしまいます。

Shiozawa:だからこそ、人の意見を聞いて勉強になることが多いですね。

― では、音源ができた後で、「こうしておけばよかったな」と思うことはありますか?

Shiozawa:もちろんありますよ。日々の生活でもあるのと同じです。でも後悔しても仕方ないので、常に前向きにいます。「この時の最善はこれだった」って思って進むようにしてますね。

Izawa:自分でなんとなく心残りがあったと思っていたとしても、周りの人がすごく褒めてくれることがあるし、逆に自分が最善だと思っていたのに、意外と周りはそうでもなかったりする。究極を言えば、自分がいいものと思うものが他人に伝わるとは限らないというのがありますね。

Shiozawa:あと、最善と思っていても、全てにおいて100%パーフェクトと言えることは、まずないですね。

Izawa:満足したり、パーフェクトではないからずっと続けていって、その積み重ねが糧になっていくような。その間に嬉しい評価をもらえると本当に喜びが出てくるし。

Shiozawa:常にまだ見ぬパーフェクトを追い求めている感じですね。

エンジニアとして達成感を感じるのは「リスナーに届けられた時」。
聴いた人の心に残る「何か」を届けられたら本当にうれしいです。

― では、レコーディングエンジニアとして達成感を感じるときはどんな時ですか?

Shiozawa:まず、携わった作品がCDやLPになって世に出た時は達成感ですね。音楽誌やSNSなどで話題にして頂いたり、担当した音楽がテレビや映画など様々なところで流れているのが聞こえた時に実感が生まれて、喜びを感じます。

Izawa:僕の達成感は2段階あります。
まず録音やミックスを終えたときに、アーティストやディレクターが喜んでくれた時。 最初のお客さんとしてアーティストやディレクターがいるので、その人たちが満足してくれることが最初の達成感です。そしてもうひとつは「リスナーに届くこと」。現物のCDを手にした時の達成感ですね。

― 聴いてくれる人に届けられたとき、ということですね。

Shiozawa:本当そうですね。本当に我々の仕事は、音楽を創り上げることだけではなくて、そのアーティストの音楽を伝える橋渡しっていうのかな。

Izawa:アーティストの音楽の素晴らしいポイントを引き出してあげるというか、ですね。

Shiozawa:リスナーに「このアーティストいいな」「この曲かっこいいな」って、何らかのことが届いたら本当にうれしいし、何かひとつ達成したなと思います。

― スタジオエンジニアとして大事なことは何ですか?

Izawa:細かい技術のことは、先程言ったように経験を積みながら磨いていくものとして、きちんとアーティストと向き合いコミュニケーションをとること、ですね。
例えば歌手はその時のメンタルによって歌い方が変わります。楽器もそう。だからアーティストと話す時間を大事にしています。会話する中で緊張を少し忘れてもらうとか、コミュニケーションでいい雰囲気をコントロールことは何より重要で奏でる音が、本当に全然違います。マイクを変えたりすることよりも、会話をしてリラックスして臨んだ方がいい音に変わるとかよくありますよ。

Shiozawa:いい雰囲気になった場で、いい音が瞬間に出た時に拾えると本当に嬉しいよね。だから、コミュニケーションはとても大切にしています。
音楽が好きで情熱を持っている人で、レコーディングエンジニアになりたいと思ってくれる人が増えるとうれしいですね。

Izawa:なかなか仕事内容を説明するのもなかなか難しいですけど、興味を持ってもらえるとうれしいです。

Shiozawa:説明難しいよね。僕は入社当時、親や親戚に「いつデビューするんだ」って言われてました(笑)

― 最後に今は、以前よりCDが売れなくなったと言われますが、お二人はどう考えられますか?

Shiozawa:僕がレコードを大事にじっくり聴いていた時代とは違って、今は音楽ってその辺に流れてて当たり前みたいなものになってます。あえて購入するものではなく、サブスクでいろんな曲を聴けますよね。
作品数も昔に比べて少なくなってきてはいます。でもその分、さらにもっと情熱がこもった作品になっていることは確かなんです。
その場で体感するライブは楽しく貴重な経験ですが、音源は全然違う作品です。ライブとは違った音やアレンジなど「創り上げた音源」を聴いた方に喜んでいただけるにはどうしたらいいのかなと常に考えてやっていますし、僕たち音楽業界の人間は、これからも向き合い考え続けていかないといけない問題ですね。

Izawa:音楽はなくならないし、音楽がなくならない限り僕たちエンジニアの仕事もなくなりません。どんなにAIが進化しても、人間じゃないとできない音楽があります。だから、音楽に情熱を持った人が少しでも興味を持ってくれて、一緒になって音楽業界の未来を考えてくれる人が入社してくれるとうれしいですね。

― 今日は本当に貴重なお話、ありがとうございました。


取材後記
社内でも、なかなか話を聞くことができないスタジオエンジニアの話に、その場の全員興味深々で、話が尽きない時間となりました。お二人ともやさしい雰囲気ながら、エンジニアとしての情熱や音楽業界の未来など、プライドを持って向き合う熱い想いを聞くことができました。その話に圧倒され、自分の仕事の話をキラキラと話せるってかっこいいなとこちらまで熱くなった取材チームでした。

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