夏野剛さん × 平澤創 [対談]

フェイス25周年記念Webサイトスペシャル対談企画3

~新春対談~

『着信メロディが生まれた日』
加山 雄三さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創

現在の「スマホ」のサービスモデルの原型はiモード
平澤 創(以後平澤)
夏野さんとは不思議なご縁で、ビジネスだけでなく、プライベートでもよくお会いしますね。
夏野 剛さん(以後夏野)
本当に。子ども同士が同級生で幼稚園から今に到るまでずっと一緒ですよね。
平澤
そう。そこで一緒になるなんて夢にも思いませんでした。夏野さんとは10年来のパパ友ですが、今日は○○ちゃんパパではなく、夏野さんと呼ばせていただきます。(笑)
まずは、何と19年前の1999年、NTTドコモにいらした夏野さんに提案して実現した着信メロディの当時の企画書をお持ちしました。
企画書 夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
夏野
きた! よく覚えています。iモードスタート直後のことでしたので、1999年の2月頃ですよね。
平澤
企画書をお見せしてからサービスインするまでに1年かからなかった。すごいスピードでしたね。
夏野
着信メロディは、iモードがスタートして10ヶ月後の1999年12月に発売された世界初のカラー端末F502iから採用され、その後、爆発的に着信メロディ文化が広がりました。でもそれはフェイスの提案が素晴らしかったからですよ。実は着信メロディの提案は、他社からもいただいていて、そのビジネス性については語られていましたが、いかに実装するか、で止まっていた。ところが、平澤さんは、フォーマットは自ら用意し、曲はエクシングがそろえ、チップはロームが開発済みと三点セットでこられたから、それはもう話が早かったわけです。
平澤
夏野さんのところに提案した後、ほぼ同じ足で、CDMA方式の携帯電話用通信チップのマーケットを事実上独占していた米国サンディエゴのクアルコム社に行ったんです。あの頃、KDDIはCDMAを使っていたから。最終的に日本で着信メロディがスタートするらしいということで、交渉の結果、フェイスのフォーマットはクアルコム社のcdmaOneにも採用され、全部にライセンスすることができた。その時に感じたのが、日本の世界に対するいわゆる移動機の輸出の仕方のプロセスとクアルコム社が世界に広がっていくプロセスが全然違うんですね。中国の通信規格について、国家間交渉で半分はGSM方式、半分はCDMA方式みたいなところで、クアルコム社の通信チップが中国の機器にも入ったわけです。日本も経済成長期の頃はもっと国が推していたってあるじゃないですか。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
夏野
確かに。実は他にも問題があって。これは日本特有の事情なんですけど、通信キャリア、つまりオペレーターとメーカーが微妙な関係にあるんです。具体的に言うと日本の通信業界は、事実上のOEMでオペレーターがメーカーの利益を保証していました。それはメーカーにとっては絶対的に美味しいビジネス。問題は、確実に利益が上がるビジネスを手に入れたら、他のところでその分リスクとるのがマネジメントのはずなんだけど、日本のメーカーは他のリスクを一切とらずに、安全なビジネス一辺倒に走った。韓国も事情は同じだったけど、サムスンは、利益が保証されている国内市場をベースとして、それとは全く仕様が違うGSM市場にもリスクを取って出て行った。国家間交渉の話もあるけれど、オペレーターがリスクを肩代わりしてくれることにメーカーが甘えたケースと、それをベースとしてより高みを目指したというケースに、経営に完全に分かれたというところじゃないですか。
平澤
メーカーの姿勢といえば、GSM方式の他のメーカー、例えば、エリクソンとかノキアの本社にも、ロームと一緒に行ったんです。当時は、半導体に実装しないと音が鳴らなかったから。iモードは、オペレーターとメーカー一体でサービスモデルを作ることができたじゃないですか。ところが、ノキアは・・・
夏野
端末の売り切りで、コンテンツに興味がない。
平澤
そうなんです。さらに、海外のオペレーターはコスト増になるのを嫌がるので、結果、最高機種にしか着信メロディが搭載されなかった。だから、日本で着信メロディが一つのコンテンツサービスプラットフォームという風になっていくなか、世界的にみるとサービスモデルがバラバラになってしまったと思いますね。
夏野
おっしゃる通りです。それで2007年になると総務省から横槍が入り「日本型のコンテンツから端末までの垂直的に統合したサービスは世界の主流ではない」とされ、端末価格と通話料とを分離した、いわゆる端末販売時のインセンティブが廃止されました。当時、世界はノキア、エリクソン、モトローラが主体だから、そちらに日本の市場を合わせるべきだという議論だったんです。ところが、その翌年に出てきたのがiPhone。iPhoneは完全垂直統合モデル、実は日本型だったんですね。ただ主たるプレーヤーが、オペレーターでなく、メーカーだったということ。海外はオペレーターがリスクをとってサービスにするところがなかった。
日本のガラケーの成功がなければ
スマートフォンの登場はなかった
平澤
Appleの垂直統合モデルがこれだけ受け入れられているのに、そういった競争力を完全に失ってしまった今の日本のメーカーはすごく寂しいなと思いますね。
夏野
でもAppleは、自分たちのことメーカーだと思っていませんよ。
平澤
確かに。
夏野
だから、そこが違いですよ。一方で、なぜノキアがAppleになれなかったのかという命題はすごく面白い。ノキアは大量生産の大量消費モデル、つまり20世紀の製造業のモデルだった。これに対してAppleは、サービスと一体で端末を売る垂直統合型のモデルを行うと明確に掲げてやってきた。実は、このモデル、通信の世界ではiモードが最初だったんです。それを海外でやるオペレーターはいなくて、メーカーのAppleがやった。それにGoogleがついていった、と。スマートフォンが登場した経緯には、実は日本のガラケーの成功があるんです。実際、世界で初めてのアプリはiアプリだし、HTMLのコンテンツ作成ツールも、絵文字も日本のガラケー発であって、スマートフォンにはその流れが根付いている。ただ、その中で着信メロディの流れがあまり根付いていないのが、すごく残念。もっと流行っていいのになと思いますけどね。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
着信メロディは、ビジネスモデル全体の中の一つの機能じゃないですか。
米国は、端末にチップは入ったけど、実際にダウンロードする曲、コンテンツが揃わなかった。日本では1995年から音楽データをダウンロードする仕組みの確立に向けて、JASRACを含めて交渉していたのでコンテンツがそろっていた。
夏野
米国はJASRACのような権利者をまとめる団体がない。
平澤
だから当時米国では一つひとつのレコード会社等に権利を取りに行かないといけなかった。米国の方が遅れていたんです。ところが、2000年にデジタルミレニアム著作権法が施行され、楽曲を簡単に使うことができるようになった。
夏野
それも2001年のiPodの登場が大きいですよね。確かに当時、米国は遅れていたけど、iPodが出てきて、スティーブ・ジョブズがいきなり攻撃的な価格設定をした。一瞬、レコード会社とものすごい戦いになるけど、iPodが売れたので、レコード会社は従わざるを得なかった。その点で日本が間違えちゃったのが「着うた」なんですよ。着うたは、KDDIが苦し紛れにレコード会社の言う通りの価格設定をしてしまったので、一曲の一部しかダウンロードしないのに300円に設定された。
平澤
そうなんですよ。
夏野
これで完全に日本は、1曲丸ごと聴ける「着うたフル」の市場で負けちゃう、遅れちゃうんですよね。
平澤
しかも、レコード会社が集まって「レコチョク」を作って。
夏野
レコード会社側の理屈で進めてしまいましたからね。
平澤
そこが日本の戦略上、結構、大きな失敗だったなという想いもありますね。
先ほどの、日本のメーカーがリスクを取らないというのは、他の分野でもそう感じますか。
夏野
PCも同じですよ。日本のメーカーは国内の法人需要だけでビジネスをしていたので、今はほとんど跡形もない。世界戦略がないんです。テレビもそう。米国に行くと、10年前くらいから日本製より韓国製のテレビの方が価格が高い。今や有機ELのパネルはほぼ全てLGから供給を受ける立場になっています。日本のメーカーはリスクが取れないので、ビジネスモデルが20世紀のままです。さっきのノキアの例もそうですが、売り切りのビジネスモデルで、何かを繋げていこうという新しいビジネスモデルは一切ない状態になっているのは、非常に危険ですね。
平澤
そういう意味でいくと、やはりiPhoneの登場というのが、私たちの中でも大きな変化だなとすごく感じますね。
夏野
これはね、ネット接続携帯電話でワールドワイドに売れるものが初めて出てきたんですね。それまでは、通信チップが標準化されていなかったので、日本の携帯電話をそのまま世界で売ることはできなくて、唯一、海外におけるネット接続携帯電話はブラックベリーだった。ところがブラックベリーは端末としては高すぎてビジネスモデルにならず、普及台数が異常に小さくて世界シェアの1%も取れなかったんだよね。
早すぎた取り組みが、
次世代サービス創出のトリガーとなった
平澤
メーカーという話で言うと、フェイス・グループの日本コロムビアも脈々とメーカー意識が強くて、最近は少なくはなってきたけど、「僕らメーカーは」って発言をするんですよ。やはり、レコードやCDというモノを作って流通させるという時代が長かったからでしょうね。
夏野
ところで、CDって高いですよね。
平澤
高いですか。
夏野
今考えると3,000円という価格設定は、やっぱり異常に高いですよ。市場のポテンシャルはもっと大きかったのに、3,000円とか2,500円を払える人を対象にしていたってことでしょう。
平澤
なるほどね。
夏野
音楽市場のポテンシャルはもっと大きかったということを証明したのが、iPodであり、着信メロディ、着うたであり、そして今ある世界のオンラインサービス全部じゃないですか。それをレコード会社が自分で作る能力がなかったんですよね。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
私が起業した25年前の音楽業界は、CDがすごく売れていました。あの時代はすごくロングテールで、インディーズが生まれ始めた頃なんです。だから300万枚売れるCDがある一方で、1万枚しか売れないCDがいっぱいあった。90年代に入った頃、米国でインターネットが登場して、いずれあらゆる情報がインターネットで行き来することになると思って1992年に作った会社がフェイスです。ところがちょっと早すぎて。パソコン通信しかない時代に、それでも音楽データをダウンロードさせる仕組みを創った。ただ、その時にJASRACと交渉していたので、着信メロディの立ち上げがすごく早かったんですよ。
夏野
私も同じように1996年にハイパーネットっていうネット広告の先駆けともいえるベンチャー企業を立ち上げたけど、先行しすぎて1997年に潰しちゃってます。早すぎて。1996年って、まだAmazonも楽天もない。でも1996年からインターネットに対して少しでも前向きな企業の担当責任者全員に営業していたから、iモードの立ち上げができたんですよ。それが実は、iモードの最初のコンテンツプロバイダー65社なんです。
平澤
ハイパーネットは早すぎましたね。
夏野
でも、あの会社が潰れなかったら、iモードはなかった。僕がいなかったら、絶対にあのモデルはなかったですからね。
平澤
確かに。それはわかります。
夏野
iモードは、通信業界でもインターネット業界でも初めてのプラットフォームビジネスですからね。
平澤
当時、ニフティなどパソコン通信の会員数が100万人いくかどうかというレベルで、しかもその会員はほとんどがビジネスユーザーだったし、一般ユーザー向けにエンターテインメントを提供するのは、厳しいかなと思っていました。
夏野
僕は逆だったんです。PCの世界では、接続者数が伸びなくてあえいでいた。そこに当時NTTドコモ入社前の松永真理さんから電話かかってきて、「何かわからないけど、ドコモがインターネットと携帯電話を繋げたいって」とか言うから、もうその瞬間、「そっか!携帯があった!」って思ったんですよ。
平澤
私の着信メロディの発想は何かって言ったら、「着メロ」歌本なんですよね。
夏野
この歌本が100万部単位で売れちゃってましたね。
平澤
そう。メーカーごとに違う番号を一音一音打ち込んでメロディを作っていたんですよ。ありえないですよね。当時のパケットの容量もあまりにも少なすぎて。
夏野
9.6kbps。
平澤
そうですよ。MIDIでも送れず、コンパクトMIDIという、さらにコンパクトな新しいフォーマットを作らないと着信メロディはできなかったんです。今では考えられないくらい少ない通信容量でしたね。
夏野
まあ、通信容量は503が発売された辺りでやっと28.8kbpsになりましたからね。
平澤
それからJavaに対応できるようになって、ちょっとしたゲームや、私たちが開発したカラオケとかができるようになりましたよね。
夏野
2001年にJavaアプリケーションをダウンロードして実行できるiアプリが入って急に変わった。
平澤
世界観、変わりましたよね。
夏野
そう世界観、変わった。だからiアプリが世界で初めてのアプリなんですよ。2001年1月。iPodより早いんですよ。
平澤
本当に時代の先頭を切っていましたね。
UXへのこだわりと抜群のユーモアに惹かれる
平澤
もう一度、世界に視点を戻して、これから通信の世界で、私たちはどうしていこうか、と。アプリ、アプリって言っているところが多いけど、アプリにこだわりすぎると、結構厳しいかなと。
夏野
アプリで世界に行くのは難しいですよね。ただ、さっきの搭載チップという文脈で言うと、例えば、iPhoneの重要な部品のほとんどは日本製だから、iPhoneに採用されていれば、今、間違いなく世界に出て行く。そういう意味では、日本の部品メーカーは狙わずして、Appleのおかげでそれを達成している。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
確かにiPhoneは日本でのシェアは高いけど、世界的に見たら日本人が思うほどシェアはないですよね。
夏野
その理由は簡単なんですよ。日本では、ガラケーをAndroidと見なせば、シェア分布は世界とほぼ同じなんですよ。
平澤
ガラケーをAndroidとみなす?
夏野
国内では、スマートフォンのシェアが60%くらい、その半分がiPhone。ガラケーは40%。でも日本のガラケーは、ネット接続もできてメールも送れる。これって安いAndroidの役割を果たしているんです。米国とかのいわゆるフィーチャーフォンは、本当に何もできない、着メロのダウンロードすらできない。日本のビジネスマンは、結構、2台持ちの人が多いですよね。それは、ヘヴィーなアプリを使わない、通話やメールの利用にはガラケーに優位性があると思っているわけですよ。
平澤
そうですね。私もガラケーとスマートフォンを持っています。
夏野
つまり、低価格レンジのAndroidの役割を日本ではガラケーが果たしている、だからAndroidのシェアが低い国なんです。実は、ガラケーの数をAndroidに組み込めば、シェアは世界とあまり変わらないんです。そもそもAppleは端末販売できちんと利益を出している。それも世界最大の利益。つまり、Appleは安売りでシェアを狙っていないし、最初から中国の安いAndroidメーカーが席巻している市場を取りにいっていない。
平澤
確かにそうかもしれないですね。
ところで、私、実はAppleは中学生の時から使っていて。
夏野
私もそうですよ。Appleファン、大ファンだもの。AppleⅡの時からですよ。
平澤
私もそうですよ。
夏野
もう超ヘヴィーMacユーザー。大好きだった。
平澤
へぇ、知らなかった。私がMacを使い続けた理由は、音楽をやり始めていたので。
夏野
音楽には最適化されていましたよね。
平澤
マウス動かした時のカーソルの動きが。
夏野
素晴らしかった。これが感動もの。
平澤
その後、Windowsが真似するけど、カクカク、カクカクっていう動きでしょ。
夏野
あとやっぱり、Appleはユーモアのセンスがあるんですよ。
平澤
そうですね、おっしゃる通り。
夏野
爆弾とか。
平澤
Sad Macもね。
夏野
あの頃からユーザーインターフェイス、今でいうUXですよね。スティーブ・ジョブズはUXを異常に意識していた。それがすごかったなと思いますね。
平澤
AppleⅡの後のMacintoshが立ち上がる時、画面に「hello」って表示されていた。その後、スティーブ・ジョブズは一回、Appleを辞めて出て行くじゃないですか。それで、ジョブズがAppleに戻ってきてから販売したiMacが爆発的に売れたんですが、同じように立ち上がる時「hello」って表示されて、その下に「again」って書いてあった。ジョブズが戻ってきた感じがして、私は結構、嬉しかったんですよ。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
夏野
Macファンは、みんな分かっている。
平澤
そう。「again」の意味がわかるのは、本当にファンだから。そういう意味で言うと、スティーブ・ジョブズって本当にユーモアがある経営者だなと。
夏野
実際、経営者じゃないのかもしれない。クリエイターなんですよ。経営者だったら、やっぱりバランス考えちゃう。やっぱり企業の存続を考えるから、あそこまで振れないと思うんですね。ジョブズは企業の存続より、自分のやりたいことを実現することに、突っ走ったからクリエイターなんですよ。私は、経営者という言葉は、あんまりリスペクタブルな言葉じゃないと思っていて。妥協が多いから。でもそれでこそ経営者だと。だからジョブズを経営者と呼ぶのは、彼に失礼だなって思うんですよ。
平澤
経営者というより、創業者、要するにクリエイターなんでしょうね。
夏野
まあ、Apple以外には創業者でもクリエイターじゃない人もいっぱいいますよね。
平澤
そうかもしれませんね。(笑)
夏野
創業の目的が世の中を変えるChange the Worldではなくて、最初からお金が欲しいとか、上場したいとか、そういうベンチャー創業者が多いのは問題ですね。
20年後の勝負に勝つために、
今、新しい領域に投資できるか。
平澤
情報通信の分野で、米国はベンチャーが巨大化していくところで、とてもリードしているように見えます。
夏野
物凄くリードしていますよ。
平澤
その中で、日本はいかにして競争していくか、これからますます難しくなってくると思うんですが、そのあたりはどのように見ていらっしゃいますか。
夏野
いわゆるWebサービスとか、携帯電話、スマートフォン上のネットサービスの領域は、もう勝負は終わったと思います。
平澤
なるほどね。
夏野
違う領域にいかないと。やはりもう、GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)たちには勝てない。あれだけの規模で企業価値が80兆円とかになってしまったら、もう動かせるお金の規模が全然違うので。だから全く違うところで勝負するしかないと思っています。そういう意味では、新しく出てくるテクノロジーのところは、まだ勝機がある。ただ、AIとかはもう負けつつあるので、物量で勝負するところではなくて、もっとユーザーインターフェイスとか、精緻なものづくりとのコネクティッド、いわゆるネットサービスと併せないとできない領域とか、それからいわゆるメディカル系、例えば、脳内に電気信号を直接送ってVRを再現するといったこと、今はまだ全然できていないんだけど、この30年以内には必ずできるはずなんですよね。人間の脳とインターネットを直接つなげる。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
なるほど。
夏野
だから、今現在の勝負はもうついた。だから20年後の勝負に勝つために、今どれだけ投資をすることができるか。ここが鍵だと思います。
平澤
フェイス・グループって、どうして音楽なんて斜陽産業をやっているのか、ってよく言われるんですよね。
夏野
いや、音楽は斜陽産業じゃないですよ。
平澤
いや、わかっていますよ。
夏野
言われるの?
平澤
それはレコード業界を見ているからそう思うんですよ。
夏野
だって、そりゃテクノロジーに関心がない経営者がやっているから。
平澤
テクノロジーは、自分たちとは違う世界だと思っているし、今でも世界で一番のCDマーケットは日本なのでまだ売れているって思っているんですよ。
夏野
だけどほら、最近のCDは抽選券だから。
平澤
いや、おっしゃる通りですよ。(笑)
夏野
それはそれで一つのビジネスモデルとしてはありだけど、ただ、もっと音楽を身近にすることを考えないと。例えば、最近Amazon Echoが我が家に入ったんだけど、Amazon Music Unlimitedがないと使えないから、当然入っちゃう。すると、そこに提供されていない曲は流れてこないわけですよ。
平澤
うん。
夏野
これをどう考えるかということだと思うんです。接触機会すらなくなっていくということなんだから。TVもラジオもいらなくなる。そうしたら、どこで販促するの?って。これまでのビジネスモデルが崩れつつあるってことに、どれだけレコード会社は気づいているのかなって。
レコード業界のビジネスモデルは淘汰され始めている。
平澤
今、音楽業界は過渡期に入っています。レコード会社と称する会社は、世界では、いわゆる3大メジャーなんだけど、日本にはレコード協会正会員だけでも18社あるんです。だからいずれ統合淘汰せざるを得ない。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
夏野
いやいや、10年前にすべきだったと思います。(笑)
平澤
おっしゃる通りですよ。世界の状況を見たら、昨年のグラミー賞、3大メジャーで半分もないんですよ。後の半分は零細のいわゆるインディーズか、もしくはアーティストのダイレクトなんです。
夏野
今、ハンデもないですからね。メジャーデビューっていう言葉の意味がわからなくなってきている。
平澤
そうなんです。だから米国はすでに、モノもそうだけど、DtoC(Direct to Consumer)の方向に進んでいるので、ブランド力のあるアーティストはもうレコード会社はいらないっていう、例えばそういう話なんですね。だから私たちは、夏野さんのおっしゃる通り、少し先すぎるけど、10年から20年後にどうやって音楽を聴いているのか、プロモーションかけているのか、アーティストはどんな音楽を生んでいるのかということを考える時期に来ていると思っています。
夏野
私はドワンゴの社内取締役やっていますけど、ニコニコ動画に出てくるアーティストを見ているとまさにそれを実感しますね。何のプロモーションもかけない。誰か何かを売ろうと思っているのではなくて、本当に好きだから表現しているだけでどんどんファンがついて、お金が流れるようになっていく。こういうところから出てくる人たちは、レコード会社いらないし、CD出す必要もない。こうしたところにいかに価値をつけていくか、それは今すぐやったほうがいい。
平澤
音楽の制作の現場では、4分から5分の曲を作るんですけど、そもそもなぜ4分から5分なのか、それはドーナツ盤の溝をそれ以上刻めないからそのフォーマットだったということなんですよ。それなのに、なぜ4分から5分だということに疑問を持つ人がいないのかっていうね。
夏野
それはね、簡単ですよ。まさにフェイスがやっているみたいに、レコード会社を買って、経営陣を変える。
平澤
(笑)
夏野
これはメーカーも同じで、メーカーの復活の鍵は経営者を変えれば、もうバッチリいきます。その証明がシャープ。経営者が変わった途端にV字回復です。東芝の半導体も良くなりますよ。メーカーの中だけで育ってきた経営者だけではもう絶対に変えられない。ただ、音楽で言えば、気持ちはわかります。日本語で歌っている限りは世界市場には行けない。そうであれば、日本のマーケットでどう受け入れられるかを第一に考える、日本はまだ1億人以上の市場なので、そこで成功すればいいという気持ちがやっぱりベースにあるんじゃないかな。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
未来永劫、感動体験は必要とされる。
平澤
私はやっぱりどこを見ているかというと、着信メロディの時と同じように世界を見ています。音楽を創る側から見たときに、Appleをどう見るかというと、Appleのサービスが終わったら楽曲は消えちゃうんですよね。
夏野
本当にそうですね。
平澤
知財である楽曲を未来永劫いかに守り続けていくか、著作権をどう守っていくか、そういうパーツは絶対に必要で残るだろうから、全然違う角度で世界のフォーマットを考えないといけない。そのなかでASEANがどうなるかなと注目している。割とちょっと違う角度でいろいろ見ています。
夏野
今は、ハードウェアデバイスがどうなるかに依存してしまっていて、そのハードウェアデバイスに紐付けられたiCloudのApple IDとGoogle Playのアカウント。もう2大アカウントに完全にアグリゲートされている。
平澤
完全にそうですね。
夏野
だから、AppleかGoogle Playが採用したら、他のフォーマットはなかなかそれ以上のチャンスはない。
平澤
だから割とWebベースとか、何かもうちょっと自由にできないかとか、いろいろ考えています。
それでは最後に、今後のフェイスに期待すること、伺ってもいいですか。
夏野
フェイスの「将来の社会にとって価値があるものをゼロから創る」っていう想いはすごくいい。企業側の言葉で言うと、いわゆる市場創造になるんだけど、ユーザー側から見たら、それは今までしたこともない体験が簡単にできるということ。感動体験なんですよね。まさに、ケータイの世界は、携帯電話でインターネットに繋がり、今までやったこともない新たな価値が携帯電話に付いたということをずっと繰り返してきた。だからぜひ、ユーザー視点で新たな価値をどんどん創り続けて、未来に繋がるたくさんの市場創造をして欲しいと思います。
平澤
今日は本当にたくさんのヒントをいただきありがとうございました。
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
夏野剛さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創

夏野剛さんプロフィール

ベンチャー企業ハイパーネット副社長を経て、NTTドコモに入社。iモードの立ち上げ、おサイフケータイの事業化等、数多くのプラットフォームビジネス、新市場・新サービスを創造。現在は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ取締役、セガサミーホールディングス、トランスコスモス、GREE、U-NEXT、ディー・エル・イー、日本オラクル他の社外取締役を兼任。母校ペンシルベニア大学経営大学院からウォートン・インフォシスビジネス改革大賞Technology Change Leader賞受賞、米国「ビジネスウィーク誌」世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出。また、HTMLの標準化団体World Wide Web Consortiumのアジア出身初のAdvisory Boardに選任(2009-2013)。